日記SS詰め合わせ

モクジ
●おはようまでもう一歩
 隙間からひやりとした空気が入り込んできて、イギリスは小さく震えた。思わず眉間に皺を寄せ、外側の冷気を遮断することに努める。しかし、あたたかさは戻ってこない。どうやら隣で寝ていたやつが、どうしても掛け布団とシーツの間を作ってしまうような体勢でいるらしかった。抗議をしようと、しっかりと閉じていた瞼を少しばかり持ち上げ、ゆるゆると視線を隣へと移した。不確かな視界の中に居た隣の男はヘッドボードにふわふわのクッションを立てかけ、体を預けている。なんだ、眠れないのか?とイギリスが思うと同時に男は、閉じていた瞳を少しだけ開き、そしてすぐに閉じた。どうやら眠ってはいないようだが、しかしはっきりと起きてもいないようだ。イギリスの視線にも気づかないくらいのあやふやな意識の中にあるようだった。
 暗く沈んだ部屋に薄明かりが届いて、男の目元が静かに煌いている。ああ、と今の全てをイギリスは理解した。今日は彼にとって特別な日ではなかったはずだ。けれどかなりの終わりの夜を越え、彼は今、始まりを迎えたのだろう。ようやく整理された感情をその目元に溢れさせて、朝を迎えているのだ。
 イギリスは、そのまま目を伏せた。次に目を覚ましたときこそ、彼に声をかけるときだと思いながら


●フランスと英語
フランスとイギリスの会話は変わっている。変わっているというのは、会話の中身ではない。言語の話だ。
通常、会話は一つの言語で行われる。日本語で話しかければ日本語で返ってくるのが普通だし、英語であってもそうだ。例外として二つの言語が入り乱れるということもあり、これは国同士だと割とよくあるケースだ。(スペインとロマーノだとスペイン語とイタリア語の混ざった文を二人は話す。)
しかし、二人の会話はどちらでもない。
フランスはフランス語しか話さないし、イギリスは英語しか話さない。なので、フランスがフランス語で話しかければ、イギリスから英語で答えが返ってくるわけだ。逆もまた然り、である。
「Dites-moi」とフランスが話しかければ「What's up?」と返ってくるし、「hey」とイギリスが話しかければ、「Quoi?」と返ってくる摩訶不思議な光景が繰り広げられるわけだ。こんな会話が可能なのも、二人ともが英語とフランス語に明るいためであるが、どちらか一方に暗いものには二人の会話を理解するのが困難であるらしい。そんな人の内の一人、日本からは「わかりにくいので、お二人とも英語で話して頂けませんか。」と言われた。(日本は、英語しか理解できない。しかも、あまり英語が得意ではない。)しかし、それが実現することは一生ないだろう。フランスはフランス語が一番素晴らしいものと考え、それ以外を話す気は一切ないからだ。(まあ、イギリスも英語が一番だと思っているから、相手の気持ちも分からなくはない。)

だがしかし、最近は違う。ごくたまにだが、フランスが英語を話すのだ。フランス曰く「好きな子の言葉を使いたくなるのは当然だろう?」らしい。Hの音が抜け落ちたフランス人特有の英語で、イギリスに話しかけるのだ。当初は不完全な英語に微妙な気持ちを抱えていたイギリスも、最近では満足すら覚えるようになった。
だって、あの、自分大好きなフランスにフランス語ではなく英語を話させているのだ。しかも自発的に。これほど、素晴らしいことはないだろう!
なので「まるで、フランスを支配してるようだ。」とイギリスはフランスの英語を許容している。それどころか、もっと話せ、とすら言っているのだった。





・そのうちもそもそと増えていくかもしれません。
モクジ
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