年賀状おまけ小説
『もしも、世界が滅ぶとしたらあなたはどうする?』
人々の間では、一種の遊びになっている非現実的なその問い。不吉なその問いかけに人々は想像を巡らして答えるけども、それはあくまでも絶対的にあり得ない未来だと考えているからそんな風に冷静に、少し楽しんでさえいられるのだ。
それならば、俺たち「国」にとっては?それはいつしか訪れる終焉の時、覚悟を決めていなければならない瞬間、長い歴史の終わり、だ。人の目からすれば半永久的な時を過ごす俺たちにも、人間でいう死と同等のものはある。消滅、だ。国そのものが消えたとき、そして地球そのものが無くなるとき、俺たちは消滅する。だから、人間にとっては想像しがたい未来であっても俺たちにとってはそうでない。必ず来る、未来なのだ。しかもフランスは当然のように自分が前者で消滅することはないと思っているから、自分が消えてなくなるとすれば後者だ。
……最後のときに俺は何を考えるだろうか。何を望むだろうか。正直なところ、分らない。だって、自分はずいぶん生きてきて絶対だとか必ずなんてものがないことをいやというほど知っているし、気持が移ろいゆくことも知っている。だから、確実にこうだろう、なんて言えない。
「おい、こら、髭。」
しん、と静まり返った部屋だった。大きな窓のそばに、イギリスとフランスが椅子を並べて座っている。窓の外では、暗い夜を打ち破って明るい朝が生まれようとしていて、それを無言で二人眺めていた。黒、青、オレンジ色、空に鮮やかに広がる色とそれを日の力強い光が照らす。新しい朝、新しい年がじわじわと始まってゆく。そんなものを見ながらぼんやりと思考の波にさらわれていたフランスは、はっとした。
「……なあに、イギリス。」
「なに、呆けた顔してんだよ。」
思わず、苦笑いをしてしまった。隣の彼には俺の意識がここにないことがお見通しだったらしい。ぼんやりと朝日に照らされた彼の眉が寄せられて、慌てる。本当は、もっとじっくりみていたかったのだけれど。
「ねえ、イギリス。いつか、世界が滅んでしまうときがきたらどうする?」
「ずいぶん、ぼんやりとした質問だな。どうって、何を俺に答えてほしいんだ?国としてどう動くかってことか、それとも……。」
「いや、お前、個人はどうするのかなって思って。俺たち、不死身みたいなもんだけど、世界が無くなっちゃったら俺たちも死んじゃうでしょ?死ぬ前に、お前だったら何をするかなって思ったわけ。」
「いきなり、なんでそんなことを。」
「こうやってさ、新しい年を迎えるのも無限にできることじゃないんだろうなってかんがえてたら、ふいに。
……ね、どうなの?」
そうだな、と彼は外を見ながら言った。
「まずはアメリカに会いに行くだろ、そして日本だ。ああ、それからカナダのことも忘れちゃいけないし、香港のことも、だな。」
「それがイギリスの答え?」
「そうだ。最期なんだから、大事な人、好きな人、友人、に会いたいと思うのは当然だろう。」
「ちょちょちょちょ、ちょっとまって!その中に俺はなんで入ってないの!?」
「ああ?なんで、俺が、お前に会いに行かなきゃなんねんだよ!」
「そんなガン飛ばさなくたっていいだろ!お兄さん泣いちゃう!」
わっと泣き真似をして手で顔を覆うと、はあとため息が聞こえたきた。
「そ、それにだな。どうせ死ぬときはお前の隣なんだ。いちいち会いに行かなくたっていいだろ!」
「……え、それって何?死ぬときはあなたの隣がいいの!ってやつ?」
「フランス、俺の拳がお前を殴りたそうにしているんだがどうする?」
「陳謝いたします。」
「宜しい。」
ぷっ、と二人で噴出した。初笑いってやつなんだろうか。
そうか、いつか来るその時も、こうやって過ごすのか。
それなら、悪くないんじゃないの?なんて満足して、俺はまた笑った。
窓から差し込む光は強くなっていて、より鮮明にイギリスを照らしていた。
さあ、新しい年の始まりだ。
以上、年賀状のおまけSSでした!
おまけになってるかはわかりませんが><
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それでは、今年一年よろしくお願いいたします。
花水木 拝