いつか君と
ざあざあと音がする。
気づいたら、雨が本格的に降り出していた。
ここまで激しいものになってからようやく気づくなんて、と自分の鈍感さ加減にあきれもしたが仕方ない。いつも、変化は急だ。気づいたときには終わりかけている。
ざあざあと降る。
しかし傘を持っていない。
そして、傘を差し出してくれる人ももう、いない。誰かの力に頼って生きていくことはもう終わりだ。傘をさしてもらっているだけの存在には戻れないし、戻りたくもない。これからは、自分の力で生きていくのだ。
(うん、俺はヒーローになるんだから。このくらいのことでくじけちゃだめだ。
むしろ、傘を差し出せるくらいにならないと。)
すごい勢いで振っていた雨は気まぐれなのか、彼が不屈を誓ったところでだんだんとおとなしさを帯び始めた。この雨を甘んじて受けようとしていた彼をおちょくるかのようだ。
ざあざあが、さあさあになり最終的にはしとしと、になっていく。
(ひどいよ!なんて気まぐれな雨なんだい!)
水びたしのスニーカーは歩くたびにぐしゃりと音を立て、
パーカーもジーンズもこれ以上ないくらい水を吸い込んでいてぐちょぐちょだ。
(めがねに水滴がついて、前が見えにくいぞ・・・・・・)
最悪だ。
こんな凶悪な通り雨はイギリスだけで十分だ。うちにまで来る必要はない。せっかく彼から離れたと思ったのに、もしかして雨は連れてきてしまったのだろうか。
(・・・・・・絶望的すぎる。)
イギリスからは、彼からは何一つ欲しくない。何も与えられたくはない。だから、通り雨もぜひとも返品したい。
こんなこと彼に言ったらどんな反応をするだろうか。
怒るだろうか。悲しむだろうか。それとも一笑に伏すだろうか。
(まあ、言えないんだけど。)
あれから、彼とは緊張関係にあってまともに話すことも出来ないし冗談などもっての他だった。
まるで、敵対関係だ。
(イギリス・・・・・・君の敵になりたかったわけじゃないんだよ。逃げ出したかったわけでもない。
ただ、一人で立って居たかったんだ。保護される子供でなく、誰かを支えることができる大人になりたかったんだ。
だから、君から離れたんだ。
本当は君のことが大好きだったよ、一緒にいたいと思うくらいには。
でも、俺は大人になりたかったから。
君を嫌ったわけじゃないんだ。)
「・・・・・・っぷ。」
彼は小さく笑った。相手がいないのに弁明するなど馬鹿みたいだ。
空を見上げるといつの間にか雨は止んでいた。いつ止んだのかまったくわからなかった。鈍感さもここまでくれば笑いものだ。
「雨、君のところに帰ったのかな。」
ねえ、イギリス。
いつか二人で傘を差し合って歩こうか。
俺は「君のとこは本当に気まぐれな天気だね!いやになっちゃうよ!」っていってそれに君は「うるせえ!いやなら帰れよ!」って返すんだよ。そして、君の家で暖かい紅茶を飲むんだ。
素敵じゃないかい?
ぐしょぐしょなスニーカーで、大きく一歩を踏みだして、彼は家路に着いた。