食とは、人間が持ちうる生命維持欲求の中で最も暴力的なものだと思う。
睡眠は自分の時間を食いつぶす。肉欲は愛を食いつぶす。そして食欲は、命を食いつぶす。他の二つに比べて圧倒的に乱暴で血なまぐさくて力強い。他の命を己に取り入れるその行為はどれだけ美しいもので包もうとも変わることなく『殺して取り込む』行為なのだ。
だから、イギリスは食に過剰な装飾をつけない。元の形が無くなるほどに切り刻むのは好きではないし、味が分からなくなるほど調味料を振りかけるのはもってのほかだ。美しく芸術の域にまで昇華された料理ほど哀れなものはない。本来の形が、命が、ぼんやりと霞んでまるで初めからなかったかのように扱われてしまう。そんなことをつらつらと話すと、彼は「お前って本当にひねくれてるのな。」と苦笑した。
お前には解るまい。愛する命を食した俺の気持ちなど。
罪悪感と悲しみと一体化できる仄暗い喜びと共にある、食を味わったことのない奴には一生。
愛する……愛していた命が原型もなくぐちゃぐちゃにされて鮮やかな色でデコレートされてしまう、その恐怖が。
「何が使われてるかわからない料理は嫌いだ。」