触れ合う温かさを忘れずに、また。
さようならと告げた口が、何か言いたげに動かされた。が、結局は何も声にならずに閉じられ、そして、そのまま顔を伏せて黙り込んでしまった彼がひどくかわいらしくて思わず笑ってしまった。
「なんだよ!」と顔をバッとあげて抗議してくる姿さえいとおしいと思う自分はすでに末期なのだろう。
彼の手をそっと包み込む。冬の冷気に触れた彼の手は冷たかった。自分と大きさはあまり変わらないその手は少し乾燥していて冷たいが自分の手に馴染む。馴染んでしまうほどこの手に触れているのだ。彼の両手を自分の両手で包みこんで、二度三度とこすり合わせてやる。少し温かさを取り戻したようだ。
「俺はここにいるよ、イギリス。お前が寒いって言うならすぐに温めにくる。だからそんな顔しないで、俺の愛おしい人。」
「そんな顔ってどんな顔だよ。」
「寂しい行かないでって顔してる。」
「ばっ、そんな顔してねえよ馬鹿!」
カッと赤くなった頬に唇で優しく触れてやる。
じわじわじわじわ。彼の体温が上がった。恨めしげに睨まれるが、にっこりと笑って返してやる。
温かさを取り戻した彼の手と俺の頬は同じくらいの温度で、じんわりと境目が溶けてしまいそうだ。暖かい。
「次会うまでこの感触を忘れないで、俺のトマトさん。」
もう一度、彼の頬にキスを落として。
溶け合って境目がなくなる前に、二度目のさようならを告げた。
